こんにちは、ウェルテック編集部です。
今回は、RESASの活用事例として、沖縄県うるま市の事例をまとめてみました。
このRESASの活用事例は自治体によって多種多様です。
RESAS、言い換えれば、ビッグデータを使い各自治体はどのような点に着目し課題を設定、分析しているのでしょうか。
そのアプローチを見ると、自治体の個性や将来像が見えてきます。
※そもそもRESAS(リーサス)って何?という方はこちらの記事をご参考ください
RESASとは?無料で使える地域経済分析システムと活用事例
こんにちは、ウェルテック編集部です。 今回は、地域活性化の取り組みや地域経済の分析に欠かせないツールである、 「RESAS(リーサス)」の概要と、その活用事例についてご紹介したいと思います。 &nbs ...
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沖縄県うるま市
うるま市概要
沖縄県うるま市は、2005年4月1日、旧具志川市・石川市・勝連町・与那城町の合併で誕生した、人口約12万人ほどの市です。
沖縄本島中部の東海岸に位置して、那覇市、沖縄市に次ぐ県内3番目の規模。人口は緩やかに増加しています。
経済振興においては、世界遺産「勝連城跡」を魅力とした観光振興策や、中城湾港新港地区への企業誘致の推進、津堅にんじんやオクラ、もずく等の農水産業の振興にも注力していますが、沖縄の製造業分野での4割を占めていた石油精製企業の閉鎖や後継者不足にみられる農水産業従事者の減少等により、市内経済をけん引するような産業は育っていないのが現状。
観光地としての潜在的な魅力は高いものの、沖縄県南部の観光地や恩納村を中心とした西海岸リゾート地と比較して、観光資源の開発が遅れ、集客力で劣る状況にあります。
RESAS活用の背景
2005年4月の合併によるうるま市誕生以降、高い失業率および低水準の市民所得の改善が課題となっていた。
市内に存在する中城湾港新港地区を県内製造業の中核を担う地区として経済特区に指定し、新たな産業振興としごとづくりを行ってきた。合併から10年が経過し、これまで実施してきた企業誘致および雇用創出事業等の産業振興策の効果検証を行い、新たな施策の展開につなげていくこととした。
分析1 中城湾港新港地区における立地企業数の推移 (独自分析)
中城湾港新港地区への企業誘致の状況を明らかにするため、まず、立地企業数の推移を独自分析。 企業誘致施策の結果、立地企業数は着実に増加(2004年度94件→2016年度221件)しており、特に製造業の企業立地数が約6割と最も多くなっていることが分かった。
▶︎中城湾港新港地区への企業誘致施策によって企業の立地は増加している
分析2 市内事業所数および従業者数の推移(産業構造マップ-全産業の構造)
※産業構造マップの例
うるま市における過去の企業誘致の成果を検証するために、市が企業誘致を進めている製造業の事業所数および従業者数の推移を分析。
2014年の全事業所数は4,436事業所、2009年の4,589事業所と比較すると3.3%の減少となっているが、「製造業」は、2014年において264事業所であり、2009年の224事業所より17.9%の増加となっている。
一方、市における2014年の従業者数は34,235人、2009年の30,322人と比較すると12.9%の増加となっており、「製造業」も2014年において3,473人で、2009年の2,583人より34.5%の増加となっている。
以上より、市が中城湾港新港地区に企業誘致を行っている「製造業」については、事業所数および従業者数がいずれも増加しており、市内の雇用創出に貢献していることが分かった。
▶︎製造業の企業誘致施策について、雇用創出の効果は出ている
分析3 雇用創出および市内純生産への寄与度(産業構造マップ-全産業の構造、独自分析)
次に、市内製造業における事業所数や従業者数の増加が、雇用創出や市内純生産にどの程度寄与しているかを分析。従業者数の構成比と増加率を掛け合わせることで市内の雇用創出への寄与度を算出。
「医療,福祉」の6.5には及ばないものの、「製造業」は3.5の指数を示しており、寄与度の面からも市の雇用創出に貢献している産業であることが分かる。
また、市における2013年度の経済活動別市町村内純生産は166,994百万円で10年前の2003年度と比較すると7.1%増加している。しかし、「製造業」をみると、市町村内純生産は2003年度と比較すると39.0%の減少であり、成長寄与度も-3.1となっている。
以上より、うるま市における製造業の企業誘致の結果、市内の雇用創出には貢献しているものの、市町村内純生産の拡大には貢献できていないことが分かった。
▶︎製造業は雇用創出には貢献しているものの、純生産拡大には貢献していない
分析4 製造業における付加価値額の推移および特化係数 (産業構造マップ-製造業の構造、稼ぐ力分析)
※稼ぐ力分析の例
続いて、製造業の企業誘致の成果を、付加価値の面からも分析。
市内製造業の付加価値額を2003年と2013年で比較すると、製造業における2003年の付加価値額が144.6億円であるのに対し、2013年の付加価値額が158.1億円となっており、約13.5億円増加している。
一方で、付加価値額を1事業所当たりで 比較したものをみると、2003年の1事業所当たりの付加価値額が1.2億円であるのに対し、2013年の付加価値額が1.1億円となっており、約0.1億円減少している。
また、市内産業の付加価値額および労働生産性の特化係数(全国水準=1)を示したものであるが、「製造業」における付加価値額の特化係数は0.57と低い水準になっていることから、稼ぐ力が弱いことが分かる。
以上より、製造業の企業誘致の結果、付加価値額の総額は増加したものの、1事業所当たりの付加価値額は減少しており、稼ぐ力も低水準であることから、個々の企業の付加価値創出力は向上していないことが分かった。
▶︎製造業において、個々の企業の付加価値創出力は向上していない
分析5 市町村民所得の水準(独自分析)
企業誘致が市民の所得拡大にどの程度貢献したかを分析。
沖縄県内の市町村民所得について、うるま市は総額では沖縄県内において上位であるが、1人当たりの額は沖縄県内41市町村中39位と低水準であることが分かる。また、1人当たりの額の推移をみても、市が誕生した2005年度以降ほとんど変化がないことが分かる。 以上より、企業誘致施策はうるま市民の1人当たり市町村民所得の拡大には寄与していないことが分かった。
▶︎企業誘致の成果は 1 人当たり市町村民所得の拡大には貢献していない
ここまででわかったことは、
■ 中城湾港新港地区を中心とした企業誘致および雇用創出事業の成果
→雇用は創出しているが、付加価値の創出や労働生産性の向上には至っていない。
■ 市町村民所得の面
→一人当たりの額ではあまり変化がみられないので、企業誘致の効果が十分には現れていない。
▶︎▶︎産業振興計画の作成にあたって、付加価値の創出や労働生産性の向上を阻害している要因を明らかにしていく必要性を認識
分析6 製造業における企業誘致の状況(産業構造マップ-製造業の構造)
うるま市における企業誘致の課題を検討するにあたって、製造業の業種別企業誘致の状況を分析。
2003年から2013年にかけての事業所増加数で上位3業種に入っているのは、「食料品製造業」、「飲料・たばこ・飼料製造業」および「生産用機械器具製造業」。
一方で、労働生産性および付加価値額がいずれも上位5位以内の業種としては、「飲料・たばこ・飼料製造業」、「窯業・土石製品製造業」および「金属製品製造業」の3業種が該当する。
この3業種は、労働生産性が高いだけでなく、付加価値額も高いことから、稼ぐ力があり、かつ規模が大きい業種であると推察されるが、両者に共通する業種は「飲料・たば こ・飼料製造業」のみであることが分かった。
▶︎企業誘致はできたが、労働生産性および付加価値額がいずれも高い業種をあまり誘致できていないことが分かった
分析7 中城湾港新港地区における立地企業の搬入搬出実績(独自分析)
次に、中城湾港新港地区のうち国際物流拠点産業集積地域うるま地区における立地企業の売上げの推移を独自に分析。
地区内における立地企業の搬入搬出実績をみると、2015 年における地区外への搬出(≒出荷)額は86億円を突破し、増加傾向である 一方で、立地1企業当たりの搬出額をみると、直近5年においては2013年の2.1億円を境に減少傾向。2015年時点では1.6億円となっている。
▶︎国際物流拠点産業集積地域うるま地区において、企業誘致で企業の立地数は増加したが、個々の立地企業の地区外への出荷額増加にはつながっていない
これら分析の結果、以下の気づきがあった
■ うるま市における企業誘致の結果、労働生産性および付加価値額がいずれも高い企業の立地にあまり結びついていない。
■ 特に中城湾港新港地区における企業誘致については、個々の立地企業の地区外への出荷額増加にはつながっていない。
■ 製造業を中心として市内産業の産業連関分析を実施することにより、産業連関の中で抜けている部分を明らかにするとともに、今後の誘致企業の検討材料とする。
■ 産業連関分析の分析結果を新たな産業振興計画に結び付けることにより、付加価値および雇用のさらなる創出を図る。
おわりに
沖縄県では、製造業が根付きにくい、と言われているにも関わらず、なぜうるま市は製造業を積極的に誘致したのでしょうか。
この分析レポートによると、一つは、沖縄県には企業を新たに誘致できるような広大な土地があまりなく、県内で積極的に企業誘致ができる土地を保有しているのはうるま市くらいしかないから。
もう一つの理由は、従来は沖縄県が主導となってIT企業の誘致を積極的に実施していたものの、 IT企業は出入りが激しく、市の雇用の安定を考えるとIT企業の誘致は難しいといった課題を抱えていたから。
とのことでした。
特にうるま市は完全失業率が県内ワースト水準なので、雇用の安定を図るためにも、企業誘致はIT企業よりも製造業をということになったそうです。
うるま市は国際物流拠点産業集積地域としての指定を受けており、今後ますます積極的に製造業の企業誘致を進めていく方針。
国際物流拠点産業集積地域とは・・・
沖縄振興特別措置法に基づき創設された経済特区で、同地域内では税の優遇措置や沖縄振興開発金融公庫の低利融資を受けることができる。
RESASでの分析からも、企業誘致自体や雇用創出には成功していたうるま市。しかし、本質的な課題は、企業の生産効率の向上や、それに起因する市民の所得の向上だったりするわけです。
となると、「出入りが激しくない、安定成長するIT企業の誘致」や「付加価値の創出の効率がいい製造業の誘致」あるいは「既存の立地企業の生産性向上支援」などが選択肢になろうかと思います。近隣自治体に大型ショッピングモールが出店していることからも、サービス業よりは製造業を支援したいうるま市。おそらく上記の文脈から考察すると、労働生産性や付加価値創出の効率がいい、「飲料・たばこ・飼料製造業」、「窯業・土石製品製造業」および「金属製品製造業」の3業種を代表とした、稼ぐ力のある製造業を今後も積極的に誘致していくと考えられるのではないでしょうか。
うるま市が今後どのような産業振興計画を進めていくのか、注目です。
参考:
うるま市の将来を見据えた効率的かつ効果的な産業振興(PDF 33.7MB)